「フランスの少子化政策にみる日本のこれから」 2007年1月26日
http://seiji.yahoo.co.jp/column/article/detail/20070126-01-0901.html
「別姓の選択肢=家族の崩壊」と言い続ける政治家は、少子化対策にも真剣に取り組んでいない、ということですね。
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「フランスの少子化政策にみる日本のこれから」
ゲスト:及川健二氏(ジャーナリスト)
神保 フランスでは少子化問題に対してどのような対策がとられているのでしょうか。
及川 現在のフランスの合計特殊出生率は1.91です。1970年代後半から一時期1.70まで下がりましたが、現在では欧州25カ国の中で第2位の高さになりました。何をやったのかというとポイントは7つあります。
1つめは、婚外子と嫡出子の差別をなくしたということです。現在、新生児に占める婚外子の割合は48.3%。日本は1.8%ですが、フランスでは5割近くの子供は両親が結婚していない、あるいは単身という状態です。フランスでも、もともと制度的な差別があったのですが、2001年に財産相続権の差別が完全に撤廃されました。
神保 日本では、婚外子の相続は嫡出子の半分。最高裁までいって8対7で割れたのだけれども家族制度、結婚制度維持のためにはやむを得ないというのが最終判決でしたね。
及川 2つめは、子供が多ければ多いほど、税負担を軽減させたということ。3つめは二番目の子供から家族手当が付くということ。二番目の赤ちゃんには月1万5千円、三番目以降の赤ちゃんには月2万円が付きます。これが二十歳になるまで家族手当として支給されるのです。
神保 ということは子供を3人作ると、合わせて3万5千円が、子どもが20歳になるまで貰えるということですね。五つ子が生まれたりしたら凄い額になりますね。税金の優遇というのは所得税控除の形で行われるのですか。
及川 はい、そうです。そして4つめは、育児と仕事が両立できるということです。子供が生まれたら、その女性は二つの選択肢を持つことになります。ひとつは、子供が3歳に達するまで最長3年間の休職が可能というもので、もうひとつが、パートタイム労働に移行して週16時間から32時間働くことができるという選択肢です。要は、3年間休職するか、子育てしながら働くか女性が選択できるということです。
4つめは、シングル・マザー、シングル・ファザーに対する単身手当です。シングル・マザーであろうがシングル・ファザーであろうが、両親が揃っている家族と変わりがないように特別に手当を付けるわけですね。
さらに5つめが、保育施設の充実、6つめが保育ママに対して、ベビー・シッターの利用に補助金がつくということです。そして最後、7つめが、小学校、中学校、高校、大学まで公立であれば学費は全て無料。大学受験が無くなったので塾に通う必要がない。子育てにお金がかからないから子供が増えているという現状があります。
神保 宮台さん、このような政策を日本で行ったら出生率は上がるでしょうか。
宮台 間違いなく上がると思います。婚外子の法的身分を保障し、シングル・マザーの経済的支援を行うだけでも、出生率は上がるでしょう。あるいは、日本では中絶が非常に多いですから、養子縁組制度を工夫すれば、効果的な少子化対策になる可能性が高いです。一部の産院が捨て子ポスト問題を引き起こしていますが、これはそういう制度の工夫が存在しないから、民間が試行錯誤をして物議を醸しているということですね。
シングル・マザー支援に関しては、家族秩序をどうするかという価値観が入ってくるので実行に移しにくいのですが、税負担問題など、実行に移しやすいものは実行に移して欲しいですね。特に子育てシフトに関しては、いわゆる育休をとらせるだけでなく、育休をとらずに就業時間だけを減らして、正社員として働き続けられるような仕組み導入することも重要です。一部の企業が既に導入していますが、政府が奨励しているという話は聞かないですからね。
神保 育休の場合も、日本のように「女は働くべきでない」といった価値観が入ってくるという意味ではやっかいですよね。あるいは、嫡出子と婚外子の差別問題や夫婦別姓問題に関しても、ある種の日本独特の価値観が入っているようにも思うのですが、もしそうだとすると、それは実際にはどんな価値観のぶつかり合いということになるのでしょうか。
宮台 日本人は実(じつ)よりも名を取る部分があるのかなと思います。よく「親がいないと子供はちゃんと育たない」といったことを言いますよね。しかし本来、親がいるかどうかよりも重要なのは、感情的な安全を保証されるかどうかなのです。たとえ親がいても、親同士がいがみ合っていてトラブルが絶えないとか、暴力をふるわれるといったことがあるのなら、それは離婚した方がいい。要は、子供にとって必要なことを機能的に分析した上で、親がいた方がそれを満たせるのか、あるいは両親が揃っていることでかえってそれが満たされないのか、といった実質の分析をすべきだということです。
特に「感情的安全」というのは、子供にとっても成人にとっても非常に重要なファクター(要素)です。子供にとっては「社会化」も重要で、一人前になっていくプロセス(過程)の中で、社会の成り立ちや物事の感じ方を学んでいく場が必要です。このような内実を重視すれば、昔ながらの典型的な家族の形でなくても、家族の役割はちゃんと果たせるという話になっていくはずです。実際にヨーロッパでは、こういったサブスタンシャル(実質的)な機能を果たし続けるための議論がされるようになりました。しかし、日本ではまだそれが無い。
神保 日本では婚外子の差別が法律で規定されてしまっています。しかし、教育基本法の改正案をめぐっては、タウンミーティングでヤラセまでしてでも、強行採決しようとする人たちであれば、その気になればこれくらいの法律は簡単に変えられるはずですよね。しかし実際は変えずに制度を維持したままということは、自民党議員や関係者はこれを変えたくないということなのでしょう。ただ、たとえ民主党が政権を取ったとしても、この問題には手をつけるのでしょうか。
宮台 それは自民党がどういう政策をとるかによって変わってくるので、一概には言えないでしょう。ただ、僕はやって欲しいと思うし、そういう働きかけをしたいと思っています。というのも、日本の家族制度が完全に空洞化するのも時間の問題だからです。「自分の親は自分がいるから離婚しないのだと思いますか」と訊くと、日本では6割がイエスなんですよ。家族はこれまで様々な機能を果たしてきたわけですが、その機能の多くが市場や行政に移転されたために、家族に要求される機能は減ってきました。今は感情的安全を担保する機能だけになってきているわけです。ですから機能的にいえば、家族の形が多様であっても感情的安全が確保されれば本当はいいわけです。
神保 しかし、もし婚外子の権利や夫婦別姓を認めたら、最高裁が言うように、本当に家族制度が維持できなくなるのでしょうか。
宮台 そこには、ある種のフォビア(phobia 恐怖)があり、男のほうが女を怖がっているのだと思います。「家族制度の崩壊」とは聞こえは良いですが、結局「自分は女、子供に捨てられるかもしれない」と意識している男が多いということではないでしょうか。
神保 そもそも男が決定権を持っているから、そういうことになっているのかもしれませんね。最高裁でも女性判事は15人中一人しかいませんからね。